データ人材を育てる前に、企業が変えるべきこと ── データサイエンティスト協会の調査結果から考える「問い」と意思決定の設計

一般社団法人データサイエンティスト協会は2026年7月、「データサイエンティストの就労意識~2015→2026 一般(個人)会員アンケートより」を公表しました。私自身も同協会の一般会員であり、この調査の対象側に含まれる立場でもあります。
今回のコラムでは、この調査結果をもとに、生成AIの普及によってデータサイエンティストの仕事がどう変わっているのかを確認したうえで、データ人材を活かす企業側の組織や意思決定のあり方について考えてみたいと思います。
データサイエンティストの側から見た就労実態
この調査は、データサイエンティスト協会の一般会員を対象に2015年から継続して実施されており、今回で10回目となります。調査期間は2026年2月2日から3月11日までで、有効回答数は323人でした。データサイエンティストの特徴やスキル、業務満足度、将来性、企業への要望などを定点観測し、企業とデータ人材のマッチングの現状を明らかにすることを目的としています。
結果を読む際には、母集団に注意が必要です。これは日本企業全体を対象とした調査ではなく、協会の一般会員による任意回答です。また、回答者は40代、50代が中心で、50代以上が53%を占め、男女比も男性約9割となっています。したがって、日本のすべてのデータ人材の実態を示すものではなく、データ分析やデータ活用に関心を持つ人たちから見た就労環境として捉える必要があります。
生成AIはすでに日常の業務ツールになった
今回の調査で、最も分かりやすい変化は生成AIの利用拡大です。
業務で生成AIを利用している割合は、2023年の31%から2024年には60%へ増加し、2026年には74%に達しました。わずか数年で、生成AIは一部の先進的な人が試すツールから、多くのデータサイエンティストが日常的に使う業務基盤へと変わっています。
活用分野を見ると、「ドキュメントの要約」が75%で最も多く、続いて「プログラムの作成」62%、「議事録の作成」57%、「挨拶文などの原稿作成」52%、「プログラムのチェック、デバッグ」50%となっています。一般的な文書作成だけでなく、プログラミングやデバッグといった専門業務にも利用が広がっている点が特徴です。
さらに重要なのは、生成AIを自分の作業に使うだけでなく、業務プロセスへの組み込みや活用推進に関与している人が41%に達していることです。関与の内容は、企画や開発などの「業務プロセスへの組み込み」が29%、改善やメンテナンスなどの「活用推進」が26%となっています(重複回答を含むため、単純合計にはなりません)。

データ人材の役割は、「自ら分析する人」から、「AIやデータを業務の中で機能させる人」へ広がりつつあります。ただしこれは、AIを業務にどう実装するかという設計であって、「そもそもどの意思決定を変えるのか」を定義する段階への関与とは、まだ別のものです。この一歩手前で止まっていることが、後で触れる数字につながっているように見えます。
満足度は改善したが、将来性への評価は低下
就労意識には、少し複雑な変化が表れています。
現在の業務に「満足している」「どちらかというと満足している」と回答した割合は46%で、前回の37%から9ポイント上昇しました。一方、データサイエンティストという仕事に将来性を感じる割合は70%と依然として高いものの、2024年の78%から8ポイント低下しています。2021年の84%をピークに、低下傾向が続いています。
年代別に見ると、30代の業務満足度は50%と比較的高い一方、40代では不満を感じる割合が37%に達しています。また40代は、スキルアップにおける課題として「手本になる人が周囲にいない」55%、「教えてくれる人がいない」45%、「スキルアップのための時間がない」43%、「上司・経営層の理解がない」33%などを挙げています。
本人の学習意欲だけでは解決できない、組織的な問題が見えてきます。
人材の流動性が高まる一方、キャリアモデルが見えない
データ人材のキャリア形成にも変化があります。
データ分析・活用業務における転職経験がない人は62%となり、調査開始以来、最も低い割合となりました。転職回数が2回以上の人も約2割に達しており、専門性を生かして勤務先を移ることが珍しくなくなっています。
また、データ分析業務に従事するようになった経路を見ると、「技術・研究職からの社内異動」が22.5%、「その他の職種からの社内異動」が20.4%、「他職種からの転職」が19.4%、「エンジニアからの社内異動」が12.6%でした。新卒でデータ分析業務に配属された人は9.9%にとどまっています。
回答者の年齢構成を考えれば当然の面もありますが、少なくとも現在活躍しているデータサイエンティストの多くは、体系的な専門職育成によって生み出されているというより、社内異動や転職を通じて形成されてきたことが分かります。
それにもかかわらず、データサイエンティストにジョブ型雇用が適用されている割合は22%で、国内一般企業の32%を下回ります。社内に独自の育成プログラムがある企業も24%にとどまり、ここ数年、伸び悩んでいます。
人材の流動性は高まっている。しかし、社内でどのように成長し、どのように評価されるのかは見えにくい。この不均衡が、将来性への評価が低下している一因になっている可能性があります。
「価値創造」が新たなスキルとして加わった意味
データサイエンティスト協会は2025年11月にスキルセットを刷新し、新たに「価値創造」を重要な領域として位置づけました。
生成AIが分析、コーディング、資料作成などを効率化するほど、人に求められる役割は、与えられた作業を正確に行うことから、「何を解決するのか」「どのような価値につなげるのか」を考えることへ移ります。
一方で、新設された価値創造領域について、自身のスキルが「それ以下・業務外」と回答した人は20%存在します。新しい役割への転換は始まったばかりであり、個人にも組織にも準備が必要な段階だと考えられます。
ここからは、企業側の問題として考えてみる
ここまでは、データサイエンティスト協会が公表した調査結果を見てきました。ここからは、その結果を企業の経営、組織、意思決定という側面から考えてみます。
私が特に注目したのは、次の三つの数字です。
業務満足度は46%まで改善しました。しかし、仕事の将来性を感じる割合は、2021年の84%から70%へと下がり続けています。そして、自分を含むデータ人材のスキルが組織内で活かされていると感じる人は、27%程度にとどまっています。

満足して働けることと、将来性を感じられることは、同じではないようです。満足度が上向く一方で、将来性への確信は下がり続けています。そして、足元の働きやすさが改善しても、持っている力を十分に活かせているとは限らないということが分かります。
私たちはデータ活用を、「見える化」と「使える化」に分けて考えています。見える化とは、必要な情報にアクセスできる状態です。使える化とは、その情報が特定の意思決定に組み込まれ、判断と行動を変え、結果が検証される状態です。
ダッシュボードは整備され、生成AIも日常的に使われている。それでもスキルが活かされている実感は27%にとどまる。多くの企業は見える化までは到達し、使える化の手前で止まっていると考えられるのではないでしょうか。
使える化されない状態は、その年の成果が出ないというだけの話ではありません。自分の力が判断に結びつかない仕事が続けば、やがて「この先も自分は伸びない」という見通しに変わっていくでしょう。将来性への評価が下がり続けている背景には、この時間の蓄積があるのではないでしょうか。
ただし、ここは二つに分けて考える必要があると考えられます。調査が尋ねているのは「データサイエンティストという職業の将来性」であって、「この会社で自分が成長できるか」ではありません。前者は業界全体の話です。しかし後者については、別の数字が並んでいます。手本になる人が周囲にいない49%、上司・経営層の理解がない28%、育成プログラムがある企業は24%、ジョブ型雇用の適用は22%。業界全体を変えることはできませんが、社内の見通しは、個々の企業が設計できる領域です。
なお、将来性への評価の低下には、生成AIが自分の仕事を代替するのではないかという懸念も含まれているでしょう。ただ、協会がスキルセットに「価値創造」を加えたのは、まさにその先の役割を示すためです。問題は、その役割を担う場が企業側に用意されているかどうかです。協会自身も、価値創造人材への転換を支える育成、評価、キャリア支援などの環境整備が重要だと指摘しています。
もちろん、これらの数字だけから原因を断定することはできません。しかし、人もスキルも存在するにもかかわらず、企業側がその能力を活かす役割や機会を設計できていないという仮説は、検討する価値があります。
データ活用が進まないとき、多くの企業は「分析できる人がいない」「専門家が足りない」と考えがちです。
もちろん、データ基盤が整っていない、データの品質が担保されていない、そもそも分析できる人が社内にいない。こうした制約は実在しますし、それが本当のボトルネックである企業もあります。
ただ、私たちがご相談をいただくのは、基盤を導入し、人材も採用した後に、なお成果が見えないという場面です。そのとき不足しているのは、多くの場合、分析能力ではありません。専門家へ渡すべき問いが、事業側で定義されていないのです。
不足しているのは、人材ではなく「問い」ではないか
私たちが企業のご支援をする中では、次のような場面をよく目にします。
- 「とりあえず売上データを見てほしい」と分析を依頼する。
- 出てきたレポートに対して、経営層や事業部門が「それで、どうすればよいのか」と尋ねる。
- 分析結果は報告されるものの、誰が何を判断するのかが決まらない。
これらは、分析能力の問題ではありません。分析の前に行うべき「問いの設計」が抜け落ちているのです。
本来は、分析を始める前に、問いそのものを整理する必要があります。私たちは、問いを次の三つの階層に分けて考えています。
① 経営・業務上の問い ―― 何を実現したいのか、何に困っているのか。
例:今期の売上が計画に対して未達で、このままでは着地が見えない。年度内に何としても軌道を戻したい。
② 意思決定の問い ―― そのために、何を選択・判断する必要があるのか。
例:営業人員を重点顧客へ再配置すべきか。販促費を商品Aから商品Bへ移すべきか。
③ 分析の問い ―― その判断に必要な事実を、データでどのように明らかにするのか。
例:売上未達は、顧客数、購入頻度、単価のどの変化によって起きているのか。
多くの企業では、①からいきなり「とりあえずデータを見てほしい」という③の依頼へ飛びます。その間にある②が、抜け落ちているのです。
②が定義されていなければ、③に答えが出ても使い道がありません。「顧客数が減っていました」という事実は、それ自体では何の判断にもつながりません。何を選ぼうとしているのかが決まって初めて、その事実が判断材料になります。
そして、②を立てる責任まで、データサイエンティストだけに負わせるべきではないと考えています。何を判断し、どのような成果を生み出したいのかを示すのは、事業に責任を持つ経営層や管理職の役割です。
データ活用とは、分析活動ではなく「意思決定の再設計」である
ここまでの議論を、私たちは次のように整理しています。
データ活用とは、分析という活動を増やすことではなく、意思決定の仕組みそのものを再設計することです。
分析はその手段にすぎません。では、再設計する対象は何か。先ほどの②意思決定の問いを一つ特定したら、それについて次の四つを決めます。
- 誰が決めるのか ―― その判断の権限が、組織のどこにあるのか
- 何をもって決めるのか ―― どの指標が、どの水準を超えたら、何を意味するのか
- いつ決めるのか ―― どの会議体で、どの周期で判断が行われるのか
- 決めた後、どう確かめるのか ―― その判断が妥当だったかを、次にどう検証するのか
この四つが曖昧なままでは、精度の高い分析を行っても、組織の行動は変わらないでしょう。逆にこの四つが定義されていれば、最初は簡単な集計であっても、判断は動き始めるでしょう。
三つの階層が問いを縦に降ろす順序だとすれば、この四つは、特定した②を実際に回る仕組みへ変えるための横の項目です。
さらに重要なのは、この設計が分析の技術ではなく、マネジメントのあり方に関わる問題だということです。分析結果がすべて上位者に集約され、上位者だけが判断する構造では、データが増えるほど判断待ちが発生します。データ活用が成果につながるのは、判断の基準が共有され、現場が自ら判断できる状態になったときです。
私たちが管理型のマネジメントから支援型への転換を重視しているのは、この理由によります。データ活用の定着は、ツールの問題でも人材の問題でもなく、誰が何をもって決められる組織なのか、という設計の問題だと私たちは考えています。
「育成」の前に、活かす場を設計する
調査結果を見て、「育成プログラムを持つ企業が24%しかないのであれば、研修を増やすべきだ」と考える企業もあるでしょう。
しかし、研修を増やせば本当に解決するのでしょうか。
研修を行い、分析やAIのスキルを高めても、職場に戻った後にそのスキルを活かす仕事がなければ、成果にはつながらないでしょう。今回の調査では、転職未経験者が62%と調査開始以来もっとも低く、専門性を持つ人材が社外へ移ることは珍しくなくなっています。同時に、キャリア形成やロールモデルの不足が課題として挙げられています。社内に活かす場と成長の道筋がないまま研修だけを増やせば、育った人ほど、それを活かせる場所へ移っていくことになりかねません。

人を育てる前に、育った人が価値を生み出せる仕事と意思決定の仕組みを設計する。
これが、企業側に求められる出発点ではないでしょうか。
今週の会議から変えられる二つのこと
とはいえ、大規模な組織改革を待つ必要はありません。まずは、日常の仕事の進め方を変えることから始められます。
一つ目は、分析結果に対して必ず判断を返すことです。
「参考になった」で終わらせず、提案を採用するのか、見送るのか。採用するなら、誰がいつまでに何を変えるのかを明確にします。
二つ目は、データ人材を業務改革の会議に参加させることです。
分析テーマが決まった後に呼ぶのでは遅いのです。完成した課題を渡すのではなく、業務上の問題を発見し、①や②の問いをつくる段階から、事業部門、業務部門、システム部門と同じテーブルに着いてもらいます。
こうした小さな変更によって、データ人材の仕事は、依頼された分析を行う仕事から、組織の意思決定を支える仕事へ変わっていきます。
データドリブンとは、データを見ることではない
データドリブンな組織とは、ダッシュボードが整備されている組織ではありません。
生成AIの業務利用率74%は、強力な道具が普及したことを示しています。しかし、道具が普及しただけで、企業の意思決定が変わるわけではありません。
データ人材のスキル活用実感が約3割にとどまる現状を変えるために必要なのは、採用や研修だけではありません。経営や事業部門が問いを立て、データ人材とともに判断材料をつくり、その結果に対して責任を持って判断を返すことです。
見える化を使える化に変えるのは、ツールでも人材でもなく、意思決定の設計です。
株式会社TKコンサルティングでは、「どのデータを分析するか」より前にある、「どの意思決定を変えるのか」という問いの設計を重視しています。分析基盤やAIを導入したものの成果につながらない、データ人材を採用したが十分に活かせていないといった課題に対して、意思決定と業務プロセスの両面から、データ活用が組織に定着する仕組みづくりをご支援しています。
出典
一般社団法人データサイエンティスト協会「データサイエンティストの就労意識~2015→2026 一般(個人)会員アンケートより」(2026年7月14日公表)
プレスリリース:https://www.datascientist.or.jp/news/n-pressrelease/post-5335/
調査資料:https://speakerdeck.com/datascientistsociety/person_research2026
一般社団法人データサイエンティスト協会では、データサイエンティストを取り巻く環境の整備に向け、スキル定義、実態調査、情報発信、セミナー、検定プログラム、コミュニティ活動などを行っています。なお、一般(個人)会員は無料で登録が可能で、協会からさまざまな情報を受け取ったり、セミナーなどのイベントに参加したりすることができます。
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