見える化で止まるDX ── データを使って判断できる組織のつくり方

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BIを入れても、会議が変わらない

DXを進めるうえでデータドリブン思考は欠かせないと、私はこれまで何度もお伝えしてきました。それはBIやAIを使いこなすことではありません。データを見て、考えて、決めて、動く。その流れが組織の中に成り立っているかどうか。そこが本質だと思っています。

基幹システムの刷新、データ基盤の整備、BIツールの導入、AI活用、ペーパーレス化。どれも必要な投資です。ただ、その投資が処理の効率化にとどまっている間は、判断も行動も変わりません。ダッシュボードは立派になったのに、会議では数字を読み上げて終わっている。そういう場面を、これまで何度も見てきました。

DXで変えたいのは、もう少し手前にあるものです。何を問題と捉えるか。何を根拠に判断するか。誰が判断するか。判断した後にどう動くか。結果から何を学ぶか。つまり、意思決定の仕組みそのものです。

データドリブン思考とは、データに答えを求めることではありません。目的を持ち、仮説を立て、データで確かめ、判断し、動き、結果から学ぶ。その進め方のことです。

DXにはトップダウンが必要

DXを全社で進めるには、トップダウンが欠かせません。

経営層がDXの目的と方向性を決め、投資の優先順位をつけ、データ基盤を整え、KPIを設け、部門の役割とデータ活用の方針を示す。ここが決まらなければ、部門を越えた変革は動きません。現場任せにすれば、部門ごとに個別最適なシステムが並び、データや指標の定義もばらばらになります。トップダウンは必要です。

ただ、一つだけ、トップダウンでは届かないところがあります。社員一人ひとりが、データを見て自分で判断する。この部分です。「データを使え」と指示することはできても、現場が何を考え、どう判断するかまでは指示できません。

多くの企業が「見える化」で止まる

データドリブン経営の成熟度は、次の5段階で整理できます。

データドリブン経営の成熟度5段階モデル

私のこれまでの経験上、多くの会社がレベル2でとどまっていると感じています。それはなぜか。

トップダウンによる指示によってDXを進められるのは、レベル2までです。データを集約し、ダッシュボードを作り、KPIを設定し、会議で数字を確認する。ここまでは、経営層が旗を振れば形になります。

レベル3から先は、様子が変わります。数値の変化に疑問を持つ。原因の仮説を立てる。必要なデータを選ぶ。対応策を比べる。自分の責任で決める。これらは現場やミドルマネジメントが自ら行うことで、外から指示して起こせるものではありません。

BIを導入し、ダッシュボードを整えたのに、会議で数字を読み上げて上司に報告するだけで止まってしまう。その理由は、ここにあります。

「見える化」と「使える化」は何が違うのか

在庫管理を例に考えてみます。

ダッシュボードに、在庫金額、在庫日数、滞留在庫、欠品件数が並んでいるとします。数字が一覧で見られれば、在庫の状態はわかります。ただ、それだけでは次のことが決まりません。

  • どの数値を異常と判断するのか
  • なぜその数値が悪化したのか
  • 欠品リスクと在庫削減のどちらを優先するのか
  • 誰が対策を決めるのか
  • どこまで現場で対応してよいのか
  • 対策のあと、何を確かめるのか

「在庫が前月比8%増えています。原因は特需の反動と、一部商品の発注タイミングのずれです。今後は在庫水準の管理を徹底します」

会議はこれで収まります。数字は見えているし、原因も挙がっている。ただ、この原因が本当に主因なのかは、誰も確かめていません。判断基準が共有されていないと、原因は「正しいもの」ではなく「その場が収まるもの」が選ばれがちです。誰の責任にもならない原因を挙げ、管理を徹底しますで終わる。これが見える化の状態です。

一方、増加の原因を仮説として立て、需要予測や発注残で確かめ、対応案を比べたうえで、担当者がその場で判断して動く。ここまで進めば、使える化です。

見える化使える化
状況を表示する判断と行動につなげる
数値を共有する数値の意味を解釈する
収まる原因を挙げる仮説を確かめる
上司に報告する権限の範囲で判断する
現状を確認する結果から学習する

使える化とは、ダッシュボードの機能を増やすことではありません。誰が何を判断し、どの行動につなげるのかを決めておくことです。

こうお話しすると、「うちの現場に、データを読んで判断できる人材はいない」という声をよくいただきます。実感としては、そう感じるのだろうと思います。ただ、順番が逆かもしれません。裁量がないから判断の経験が積めず、経験がないから任せられない。この循環が、人材不足という形で見えている可能性があります。

在庫の担当者は、判断を求められてこなかったから判断できないのであって、力がないから判断していないわけではありません。研修でデータリテラシーを教えても、判断する場がなければ身につきません。ここにあるのは、システムの壁というより、組織とマネジメントの壁です。

データを使う社員と、自律する社員は重なる

データドリブン思考は、一人ひとりの頭の中の話です。ただ、本人の努力だけで身につくものでもありません。判断する場と条件が組織の側に用意されて、はじめて動き出します。ですから、考えるべきは「社員にどう教えるか」より「社員が判断できる条件は何か」のほうです。

自律的な社員というと、「指示がなくても積極的に動く社員」と思われがちです。ただ、動くだけでは自律とは言えません。組織の目的から外れて自分の考えだけで動けば、部分最適や属人化を生みます。

自律的な社員とは、組織の目的と判断基準を理解したうえで、必要な情報やデータを使い、自分で考え、判断し、行動し、その結果を説明できる社員のことです。

こう並べてみると、データドリブン思考の進め方とほとんど重なります。どちらにも、次の5つが要ります。

要素問い欠けると起きること
①目的何を実現するための判断か何を改善すべきか分からない
②判断基準何を優先し、何を避けるか人によって結論が変わる
③データ何で現状と仮説を確かめるか経験や勘だけに頼る
④裁量どこまで自分で決めてよいか上司への報告で終わる
⑤振り返り結果から何を学ぶか組織に学習が蓄積されない

データを使える組織にすることと、社員が自律する組織にすること。この2つの取組みには共通点が多い様です。

データと裁量の2つで自社を見る

自社がどのあたりにいるかを見るために、5つのうちデータと裁量の2つを取り出してみます。ただし、これは見取り図です。目的と判断基準、そして振り返りは、どの象限にいても土台になります。これらがないまま右下にたどり着くことはありません。目的のないデータと裁量は、ただの放任です。

データ活用と裁量の2軸で見る組織の4象限

在庫の例に当てはめてみます。

データはあるが裁量がない場合、担当者は在庫の増加に気づき、上司に報告します。判断は上司が引き取ります。これはデータドリブン経営というより、データを使った管理の強化です。

裁量はあるがデータがない場合、担当者は経験と勘で発注量を調整します。担当が変われば判断も変わります。自律というより、属人化です。

両方がそろうと、担当者は増加の原因を仮説として立て、需要予測と発注残で確かめ、欠品リスクと在庫削減のどちらを優先するかを組織の判断基準に照らして決め、結果を振り返ります。

データなき自律は属人化し、自律なきデータ活用は報告業務になる。

経営層と管理職の役割が変わる

先ほどの5つのうち、目的、判断基準、裁量の3つは、社員が自分で用意できません。組織の側が設計するものです。ですから、使える化や自律化を進めても、経営層や管理職の役割が小さくなるわけではありません。むしろ重みが増します。ただ、中身が変わります。

見える化から使える化への経営層・管理職・社員の役割変化

先に触れた「部門ごとにデータの定義がばらつく」問題は、この表の左上にあたります。レベル1・2の段階で経営層が片づけておくことで、レベル3から先の土台になります。

つまり、決めるべき対象が変わるということです。ツールや仕組みをどう入れるかから、意思決定できる組織をどう設計するかへ。

管理職も同じです。従来型の管理職は、進め方を細かく指示し、途中経過を管理し、最終判断を引き取ります。在庫の例なら、「なぜ増えたのか」と問い、報告を待ち、自分で対策を決める形です。

支援型の管理職は、目的と方向性を示し、成果の水準を担当者と合意し、判断に必要な情報を渡し、問いによって考えを促し、障害を取り除き、判断の結果を一緒に振り返ります。同じ場面なら、「どういう可能性を考えている?」「それを確かめるには何を見ればいい?」「どこまで君の判断で動いていいか、決めておこう」という対話になります。

ここで一つ、気をつけたいことがあります。権限移譲は、仕事の丸投げではありません。

目的も判断基準も示さず「自分で考えて」と任せることは、権限移譲ではない。それは管理の放棄である。

5つに照らせば、裁量だけを渡し、目的も判断基準も振り返りも渡していない状態です。これは自律ではなく放任で、先ほどの4象限で言えば、右下の見せかけにすぎません。

では、目的や判断基準をどう言葉にして渡すのか。これについては、別のコラム「“任せているつもり”が、部下を指示待ちにしている」で詳しく書いています。

DXとは、データを使って判断できる組織をつくること

DXの初めのうちは、データを集め、見えるようにすることが必要です。ただ、見えるようになっただけでは、社員の判断も行動も変わりません。

大事なのは、目的を共有し、判断基準をはっきりさせ、必要なデータを渡し、判断の権限を移し、行動の結果を振り返る。この一連の仕組みをつくることです。

DXとは、デジタル技術を導入することでも、データを見えるようにすることでもありません。社員一人ひとりが、組織の目的を理解し、データを使って自ら考え、判断し、行動し、結果から学べる組織へ変わることです。

データドリブン経営を「見える化」で終わらせないために、データ基盤と一緒に、意思決定の仕組みと権限とマネジメントを変える。その先で、データドリブン思考の定着と、自律する社員が育つことは、同じ一つのことになります。そして自律する社員が増えたとき、DXは推進部門だけの取り組みから、組織全体が自ら変わり続ける動きへと変わっていきます。

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