三角をひっくり返したら

この本で伝えたかった事

現代はマネジメントスタイルの転換が必要

昨今、「働くこと」に対する認識の違いが、若者とその上の世代の間で社会問題として注目される様になっています。

この10年で働く環境は大きく変わっており、管理職の方には自分たちが育ってきたやり方では今の若者には通用しなくなっているという悩みを抱えている人が多いと思われます。

そういった観点から我々は現在の日本の職場にはマネジメントスタイルの転換が必要と考えており、これまでの「管理型」から「支援型」への転換を提唱しています。

10年前とは働く環境は
こんなに違っている

  • 終身雇用制度の破綻に伴う雇用の流動化と共に転職に対するハードルが下がった。
  • 働き方改革関連基本法により労働時間の制限が設けられた。
  • 価値観が多様化し、働き方やライフスタイルの選択肢が増えた。
  • コロナ禍の影響によりリモートワークの推進や管理職の役割の変化が進んだ。
  • ハラスメント等に対する職場意識の変化により、上司が部下に示す態度に制約が設けられた。

「管理型」マネジメントとは

そもそもなぜ今のマネジメントスタイルは「管理型」になったのでしょうか。
それは30年前のバブル崩壊以降、成果主義とともに日本に急速に広まった「目標管理制度」による影響が大きいと思います。自分が立てた目標に対してその達成度を評価するという一見合理的なマネジメント手法ですが、「目標達成を重視してチャレンジをしなくなる」「部下に対して育成よりも管理志向が強くなる」「部下が自主性や創造性を発揮しにくい」などの運用上の問題点も多く挙げられています。

またバブル経済と呼ばれた1980年代の「Japan as No.1」と称されていた時代を生きた世代は、年功序列や終身雇用制を前提とした「会社は家族」や「24時間働けますか」といったフレーズに象徴されるように、会社に対する帰属意識や人間的なタフさを強く持ち、その世代から受けた影響は現在でも少なからず大きいと考えられます。
その世代の価値観を否定するつもりはありませんが、その一方で「根性論」とも言えるような精神主義的な側面や、仕事のやり方を明確にせず、実務を通じて技を体得するべきといった暗黙知重視の側面が見られることがあり、現在多くの企業で見られる管理型マネジメントには、そういった過去の日本のマネジメントスタイルの影響を引きずっている面も見受けられます。

管理型マネジメントのイメージ

部下は上司よりも未熟だから上から指示して、管理するべきというスタイル。
減点主義になりやすく、社員の自主性やチャレンジにマイナスに働きやすい。

  • 目標達成を重視してチャレンジをしなくなる
  • 部下に対して育成よりも管理志向が強くなる
  • 部下が自主性や創造性を発揮しにくい

この管理型マネジメントが行き過ぎた職場では、次の様な問題が表れることがあります。

  1. 完璧を求める 
    管理型マネジメントの発想はミスを防ぎ効率的に業務を進めることが重視されますが、ともすると減点主義になりやすく、行き過ぎると完璧を求めすぎる傾向が強くなります。その結果、過剰な確認作業やチェックに時間を取られ、業務全体の効率を下げることなども起こります。
  2. 過度なホウレンソウ(報告・連絡・相談)を要求する
    ホウレンソウ(報告・連絡・相談)はスムースなコミュニケーションを促進する上で重要ですが、過度に求め過ぎると、メンバーが些細なことまで逐一報告する必要に迫られ、現場でのスピード感が損なわれたり、メンバーの自己判断力や主体性を奪う結果に繋がりかねません。
  3. 問題発生時に犯人探しを行う
    問題が発生した際、その原因や背景を分析して再発防止策を講じることは重要ですが、管理型マネジメントの発想はその責任所在を「人」に求める傾向があり、「犯人探し」が始まることがあります。リーダーのこういった姿勢は、職場の心理的安全性を著しく低下させ、メンバーが問題を隠ぺいする傾向をも招きかねません。

上司はメンバーの活躍の場を作る存在である

職場の雰囲気は、上司の振る舞い次第で大きく変わります。従来の管理型マネジメントの思考では、上司は自分の考え方をメンバーに当てはめがちですが、支援型マネジメントでは「メンバーが主役」であり、メンバーの成長と成果を最大化するために、環境やサポートを提供することが上司の重要な役割です。そのために上司はメンバーの個性や能力を尊重し、チームとしての成果を最大化するアプローチが求められます。

「メンバーが主役」といっても、何でも部下の意見をそのまま受け入れようというわけではありません。ただし、メンバーが安心して自分の意見を発言できる環境を整えることは非常に重要で、上司から意見を頭ごなしに否定されるとメンバーは意見を言わなくなってしまいます。上司がメンバーと常日頃から対話を重ねることで、メンバーのスキルや得意分野を把握し、それぞれの強みを最大限に活かして自主的に仕事を進められるようになるのです。

またチームの方針や目標をメンバー間で共有し、仕事の進め方やルールを具体化することで、業務を仕組化を推進することも欠かせません。仕組化を進めることで、チーム全体が一貫した基準で効率的に働けるようになり、部下は迷うことなく業務に取り組める環境が整います。また問題が起きた時、その原因を「人」ではなく、「仕組」に求めることにより、問題解決の本質にアプローチできる様になり、職場に建設的な雰囲気が生まれます。
対話を通じた理解の促進と、業務の仕組化という両輪が揃うことで、部下の成長を支援するとともに、職場全体の生産性向上を効果的に実現できます。

支援型マネジメントのイメージ

上司はメンバーの成長や活躍、働きがいの向上を支援する。

  • 心理的安全性が高い:チームメンバーが自由に自分の意見やアイディアを表現できる。
  • チームメンバーの自律性を重視:各メンバーが一定の裁量権を持ち、自主的に仕事を進められる。
  • フィードバック文化の醸成:定期的なレビューにより、メンバーが自分の仕事ぶりについてフィードバックを受けられる。
  • 仕事の仕組化:チーム内の目標をメンバー間で共有し、仕事を進める上での進め方や役割分担、やるべきこと、やってはいけないことのルールが明確になっている。

また、支援型マネジメントが現代に求められる理由には、上司と部下の信頼関係を構築するだけでなく、以下に挙げる様に現代の経営環境そのものの変化に対応するためということもあります。

  1. 市場環境の複雑化と迅速な対応の必要性
    現代の市場環境では多様な価値観が混在し、従来型の固定的な発想では成長が見込めません。新しい価値を生み出すためには、経営の意志としての戦略を現場に伝え、現場での臨機応変な対応と柔軟な試行錯誤が不可欠です。新しい取り組みが市場に受け入れられるかは実際に試してみなければ分からないため、現場の主体性と創造力を活かした対応が必要です。
  2. 専門性の多様化とコラボレーションの必要性
    近年では活動を進める上で多様な専門性が求められる場面が増え、社内外の専門人材とチームを組む機会が多くなっています。その中で、お互いの専門性を尊重し合い、柔軟な発想で協力することが重要です。支援型マネジメントはこうしたコラボレーションを円滑に進め、成果を最大化するために役立ちます。
  3. 働き方の多様化への対応
    現代の職場では働き方においても多様な価値観やニーズに応じた柔軟な対応が求められています。これは従来の一律的な働き方では多様な専門性を持った人材それぞれの能力やニーズを十分に発揮することが難しいため、メンバー一人ひとりの状況や働き方に配慮しながら、成長と成功を支援するマネジメントスタイルが必要になっているという側面があります。

部下の成功を自分の成功と捉え、共に成長していく支援型マネジメントは、個別のチーム単位で取り組むよりも、職場や会社全体で一体となって実践することで、より大きな効果を発揮します。チーム全体のモチベーションを高め、業績向上にもつながります。
この絵本が会社のマネジメントスタイルの転換とより良い職場環境の実現にお役に立てることを願っております。